日本ではドイツの鉄道模型の名門、というイメージ。然し、高額な(※)精密な機関車モデルがある一方で、入門用のセットは1960年代より、比較的廉価に供給されてきました。
昔の鉄道趣味誌の朝日通商/不二商の広告見る限りだと、当時の国産HOゲージ(「EB58」とかが入ってる)の基本セット、遙か後にも国産Nゲージ基本セット+α位の価格設定されてた模様。お金を出す親御さんの趣味によっては「こっちにしなさい! ドイツ製だから」なんてこともあったかもしれません(笑)。
※:高価といっても、真鍮製の日本形HOよりは概ね廉価なのですが。模型といっても飽くまで手工芸品ではなく、マスプロダクツモデルであるところに注意。一般論ではともかく、鉄道模型誌ではその辺は正しく認識されてるようです(客車がフルスケールでないところが批判されたりも)。
あと、あちらではHOゲージ(特に交流三線)が日本のNゲージ的ポジションでもありますね。
で、歴史の基本中基本としてwikipediaの「メルクリン」を。
そこに、現行メルクリンのラインナップにこんなものがあるのが分かりました。
メルクリン・マイワールドちょっと付記して、ホビープログラムに関しては以下。
かつてのホビープログラムと同様の初心者向けシリーズで、2011年から展開が開始された。以前より発売されていた製品や、新しく作られた内蔵バッテリーを電源とする列車などが展開されている。ホビープログラム用のTRAXX機関車も引き継がれた。
1991年から2005年にかけて展開されていた、初心者や年少者向けの交流三線式HOゲージのシリーズ。2011年からはメルクリン・マイワールド(Marklin my World ) として、かつてのホビープログラムに相当するシリーズが登場している。その前にも、プリメックスというシリーズがあった模様。
プリメックス (PRIMEX ) は1969年から1992年にかけて展開されていた、交流三線式HOゲージブランド。主にスーパーマーケットや百貨店で販売されていた。
メルクリンが元来は総合玩具メーカーであることを思わせる、低価格・低年齢向け戦略って半ば伝統なのですね。日本でいえば「プラレール → トミックス」ポジションのドイツ版?
無論、延長線上には高度なシステムやら高級なモデルもありますから、シームレスに大人のホビー※として一生楽しめるという流れになっていると。
※:洋の東西問わず1980年代までは、相当な理由がないと大人が子供のおもちゃで遊んだりコレクションするのは特殊特異な行為でした。でも、鉄道模型になると大人のホビーとして肯定されてたんですね。
閑話休題。「メルクリン・マイワールド」はこんな感じの商品です。

メルクリン公式(独語)より
カタログはここから閲覧可。
http://www.maerklin.de/de/produkte/myworld/der_katalog.html

日本での並行輸入品販売(amazon.co.jp)
日本でのレビュウ記事。「29200 ICE Startset / my world」(Spielkiste様)
http://maerklin-kiste.blog.so-net.ne.jp/2011-10-03
乾電池+赤外線コントロールのショーティICEの編成でプラレール的ディフォルメ。他にも他国高速列車やら(Amtrakまである!)、貨物列車のモデルがあります。
驚愕に値するのは以下の点。
システムと発展性:直流二線式を諦めて久しいビルンド製のシステムと同じく、電池式・赤外線コントロール。然し、レールは交流三線対応の金属レールで上位システムと全く同じもの。つまり、扱い者が成長すればそのままシームレスに交流三線運転、何時かはデジタル運転へとステップアップ出来るということ。「ステップアップできるのはレゴブロックだけ」なんて某社のコピーっていったい……(笑)。
価格:公式ショップでわずかに49.95ユーロ。並行輸入品も7000円程度。これは既に鉄道模型の価格ではありませんよね(良い意味で)。
安くなったと言え、レゴトレインのセットは10000円以上しますよね?
対象年齢:3歳以上(!)。PowerFunctionトレインの対象年齢は6歳以上。3-5歳という鉄道のおもちゃ欲しがる世代の初期要求を完全に奪われてしまっています。で、3歳に手にしたシステムがそのまま一生の趣味になるかもしれない、三つ子の魂百まで……を地で行く商魂! その間にプラレール→トミックスほどの乗り換えも要さないのです。
なお、マイワールドカテゴリの中には、交流三線の製品で年少者に適したもの(対象年齢8歳以上)も含まれてる由。フルサイズのICEや電気機関車もあれば、昔ながらの基本セット的な「小型蒸機+小型貨車」もあり。半端にホビープログラムの製品が残ってるというよりは、マイワールドの中でも発展性がある暗示にも取れましょう。
(まぁ、流石にフルサイズのICEのセットは240ユーロくらいして、レゴで云うなら#10000代ポジションというか普通にHOの鉄道模型の価格ですが。小型蒸機+貨車は145ユーロ位。これは日本のNゲージ入門セットの価格というか、まぁぶっちゃけPowerFunctionのレゴトレインセットの価格ですね)
さて。
我らがレゴトレインって、いつの間にかとんでもないライバルを抱えてしまっていたのでした。
いやまぁレゴ社も嘗て灰レール12V時代に喧嘩ふっかけた? 相手ではありますが(笑)。
価格面でも、発展性という意味でもガチなライバルじゃないですか!
願わくは、強力な世界的ライバルに対してビルンドも有効な手を打って出てほしいものです。
発展性意識した単品車輌とか、より多くの種類の列車。或いは金属レールの復活とか(ついでにデジタルもね♪)。逆に低年齢向けの手押しとかの簡素な製品も。シームレスな発展性という意味でメルクリンにこのままじゃ勝てませんよ?
まぁ鉄道模型「専業」メーカーの低価格品と、「総合」組立玩具メーカーの鉄道部門製品を単純比較はできませんけど。費やされるべき経営資源だって違うでしょう。
しかし、後者には「組み立てる」要素が別物ではあり、大きな付加価値にはなっています。
だからこそ、ライバルに慢心しないで欲しい。
そして、再度メルクリンに喧嘩ふっかけて欲しい(笑)。アメリカ系の玩具メーカーとアクション系テーマで戦うばっかりじゃなくて。
いろいろ考えさせられ、そしてエール送りたくなる、メルクリンの「戦略」なのでした。
システムとしてのメルクリンの完成度と発展性は確かにレゴ並みですが、メルクリンはどこまでも鉄道模型ワールドとシステムを形成する為だけに企画設計された工業製品である事、というところでしょうか?
それに比べたら、レゴはなんにでもなり得る細胞か分子のようなもの。最近は特殊パーツが出てきてちょっと雰囲気は変わってきつつありますが。そこのところに違いが出てきます。
分子細胞から何をつくるか、という創造の過程と、用意された専用のパーツやユニットを組み合わせてどんなシステムの鉄道をつくろうかというこれもまた創造と言える過程には、明らかに一線を画すものがある事は確かです。
ただし、鉄道が好きな方々はより本物っぽい造形を求めてメルクリン系に自然とシフトしていくでしょうし、デザイン的要素を重視した創造的造形を尊ぶ人はレゴを嗜好する事になるのではないでしょうか?
どちらがよいというわけではありません。どちらも好きな私としては、つまるところ、どちらに夢中になっていても、ふとこんな事してて、何が面白いんだろう?と我に返る事があるのがこれまたおもむきのあるところで、そういう事をときどき感じさせてくれつつもやはり夢中な時間を与えてくれるレゴやメルクリンをいとおしく思う心には変わりないように思います。
ところで、メルクリンを楽しんでいる人々のほとんどは、メーカーが用意したパーツを組み合わせて模型世界を構成する事になりますが、一般の鉄道模型、特にナローの世界などでは、そのパーツから自分で捜索する場合も多々あります。その点が鉄道模型を含む一般の模型工作とメルクリンのようなシステマティックな鉄道模型製品との差、レゴとの差と言っても良いのではないでしょうか?
工場で生産されたものがそのままの形で創作材料の単位となるか、それとも本当の素材としてそのものが加工されるか、そのあたりの差は決定的なものではないかと思います。
制限のある造形が却ってオリジナリティのある創造的な造形を生む事もあれば、まったく自由な粘土細工のような造形がすばらしい創造性を具現化する事もある。どちらが良いとはいえませんけれど、工業製品が発達したこの世界の中で、レゴやメルクリンのような与えられた枠のなかでの創造性を追求する遊び、そして感性というものは、これからの世界ではより現実的、現代の技術文明に適応した技術や感性となっていくのではとも思えます。
その是非は別として……
コメントありがとうございます。
本文は飽くまで「鉄道模型の入門品」、そして「(プラレール無き地での)鉄道系玩具の市場」という意味で記しております。あと、良きライバルが顕れたから、レゴ社も頑張れ!と。
そのため、もっと本質である「完成品(而も完成度の高い)」と「組立玩具(それも最も自由度の高い)」の違いは敢えて目をつぶっております。
思えば、全てが完成品として供給されている(この辺は一般の鉄道模型とも一線を画す)メルクリンと、ほとんどのものを自分で設計し作らねばならないレゴのトレイン系とは似て非なるものなのかもしれません。
ただ、レゴでもセット素組のみの、コレクター的ユーザも多いのは事実です。自分もクラシックなもの(1970−80年代の製品)に関してはコレクターという立場ですし。
一方で、交流三線でも工作楽しまれている方がいらっしゃるのは周知のとおりです。
故に、この辺の一線は簡単には引けないのかもしれません。
正直なところ、優れたシステムを使う、使いこなすって意味で言えば
「分子細胞から何をつくるか、という創造の過程と、用意された専用のパーツやユニットを組み合わせてどんなシステムの鉄道をつくろうかというこれもまた創造と言える過程」
に自分は一線を引けません。
無論、ゼロから(一枚の真鍮板・プラ板・ペーパー)から何かを作り上げてしまう方への憧憬と敬意は別物です。
でも、キットやその改造になると……うーん、やっぱり線引が難しくなるような。いや素組でも難易度ドS級のキットや、自作と変わらないレベルの改造も多々ありますけれど。
翻って自分自身の立場としては
「ものを作るのが好き。大好き」「完成品は正直、直ぐに飽きるのであんまり好きではない」
でも、「手先は致命的に不器用(学生時代にGM板キットで思い知った)」
という点で、レゴを素材に選んで久しいのです。
無論、幼い時期にレゴに慣れ親しんでいたがゆえの懐かしさや憧れも多々あります。
大きな車輌の割に比較的ローコストという経済的理由も(笑)。
商品サイクルが長く、また限定品が殆ど無いので、メーカーの戦略に惑わされずマイペースで楽しめるというのも大きな要素かもしれません。絶版はありますけれど、部品単位ならほとんどのものは代用が効きますし、その代用もまた創作になりますから。
やはり、他のものでは替えられないベストチョイスだと思う次第です。
無論、自由に素材を操れる方への敬意だけは忘れてはいけないと思いつつも。
最後に。
メルクリンに関しては1976年ころ「メルクリン・プラス」なるレゴ的なプラスチック玩具作っていたことがあれこれ調べるきっかけになりました。
或る程度情報得られたので、これも折見て記事にしたいと思っています。
拙サイトへのリンクをありがとうございます。メルクリン収集と走らせることを趣味とするものの立場でコメントいたします。まずは、メルクリンの製品について良く精通していらっしゃることに驚きました。そして敬意を表します。私のレゴの知識よりよっぽど素晴らしいです。
実は、私もメルクリンを持つ前の幼少の頃からレゴが大好きで、もちろんレゴの鉄道も持っていました。当時はバッテリ駆動で青いレールだったか?(今は子供のために買ったプリモ、デュプロ、レゴを大切に保存しています)メルクリンは昔から就学前の子供を対象にした鉄道模型(例えば、ALFAシリーズ、MAXIシリーズ、Toyシリーズなど)をリリースしては失敗し、様々な頓挫した歴史があります。その要因は、子供に与えるものとして高価過ぎたり、メーケティングの失敗だったりと様々なのですが、ようやく価格、品質、使い易さ、発展性を含めて高い次元で集約された商品が完成し、それがマーケットにも受け入れられたという感じでしょうか?その第1は今迄の線路から集電する電気駆動からバッテリー駆動に変わったことが大きな要因です。そしてBトレのようなリアルな外観。ですからライバルは、レゴの鉄道シリーズももちろん含まれるでしょうが、それ以上にスウェーデンのBRIOや、同じグループのLGBなどもあるでしょう。要はその年齢セグメント全てがライバルと言ったところでしょうか?
もちろん、レゴは書かれてあるような北米ハリウッド映画キャラ依存のものもありますが、メルクリンもハリポタやトーマスシリーズを出してましたし、まぁ、売れるものなら作りましょうというスタンスなのかも知れません。一方で知育玩具としてのしっかりした哲学を持つ両社でもあります。そのためのアイテムはメルクリンよりむしろレゴの方がDactaなど、しっかりした基盤を持っています。少子化が進む欧州では、日本同様、幼少期からのファンを掴むことが大切であり、更にレゴでは建築シリーズなど末長く遊べてマーケットの裾野も広いものです。何で遊びたいか決めるのは個人個人ですし、両社がお互いのアイデアを刺激し合うのは、きっと今後に良い影響を与えると思います。
長文になり失礼しました。
はじめまして。Akira様のマイワールドに関する素晴らしい紹介記事を拝見し、メルクリンの今の「戦略」に大きな衝撃をうけ、こうした記事認めた次第です。
製品に関する知識は古い「とれいん」誌が大きいです。
あと知人から借用した1976年版日本語カタログも。欧州型への刷り込みはRM誌(まだ実物と模型が1誌だった頃)の欧州型記事の影響が大きかったですね。無論、今のコレクター諸兄のホームページやブログも重要な情報源です。
(正直なところ、レゴで何か作るときの参考にすることも多々あります。SNCFのCC40100+TEE-INOXを作ったときは、実物の良い写真が全くなく、メルクリンの現行品写真を参考にしたのでした)
>もちろんレゴの鉄道も持っていました。当時はバッテリ駆動で青いレールだったか?
青レールの4.5Vですね。
私も昔手押しので遊んでいて、今はコレクションとして1970年代後半の電動のセットを「動態保存」しています。それに足る魅力とか雰囲気はありますから。
ご存知だと思いますが、この時代はレゴもメルクリンも同じ商社(不二商)が扱っておりましたね。あと、昔の「とれいん」で、メルクリンのミニレイアウトでレゴをストラクチャに使う企画なんかもありました。
意外と近い世界にあったんだと思います。
さて。マイワールドは順調に新製品もリリース続いているようですね。
ライバルはBRIOやLGBもありますけど、日本人的にはプラレールもライバルかなぁと思ったりしています。なんであれ、この市場は賑やかであって欲しいです。鉄道玩具のユーザのある程度の%は、必ず鉄道模型のユーザ、一生のユーザになるものと思っておりますから。
>メルクリンもハリポタやトーマスシリーズを出してました
意外でした。そんなところにも食いついていたのですね(笑)。
まぁホーンビィも、トミーテックもトーマスには食いついてますね。無論BRIOも。
>両社がお互いのアイデアを刺激し合うのは、きっと今後に良い影響を与えると思います。
同感です。
レゴのファンとしては、鉄道玩具・鉄道模型の市場が大きくなり、レゴ社がそこに大きく乗り込むのが経営として望ましい……という方向になってほしいですね。
(レゴの鉄道ものは年間数アイテムしかリリースされず、ファンは常に新製品に飢えていますから……)
丁寧なご返答をありがとうございます。レゴもメルクリンも同じ知育玩具としての地位を確立しています。ただ、中々難しいのは、そのような真面目な路線だけでは商売に繋がりづらいこと。メディアで人気のあるトーマスやハリウッド映画ならリスクが少なく商売につながり易いです。知育玩具としての製品哲学を捨てないための商売であるなら、私は致し方なしと考えます。そういうちょっと矛盾した環境下でありながらも、レゴとメルクリンは、同じ目的で違う手法を使って新しい遊びの世界を創造する製品を供給するのであれば、それは単なる玩具を域を超えて文化の一部になり得るのではないか。と思います。この両社にはエールを送りたい,,と共に、sekaiyamaさんとレゴ、メルクリン談義を1度オフでしたくなりました。
商業主義に関しては同様に肯定です。というより、ハリーポッターやトーマスのような、汽車が出てくる人気作品、そして世界に通用する作品がもっと出てきて欲しいですね。
>玩具を域を超えて文化の一部になり得る
同感です。
肯定的な意味で、メルクリンは鉄道模型という言葉からちょっと離れたところに存在する意味で「メルクリン」だと思っています。他社よりずっとずっと先にシステム化と世界戦略で引き離していたわけですし。マイワールドもシステムを低年齢・低価格というレンジに広げた部分に凄みを感じた由です。
>sekaiyamaさんとレゴ、メルクリン談義を1度オフでしたくなりました。
有難うございます。お住まい関東でしたら、その機会も作れるかと思いますが如何でしょうか?