
文字のない、絵だけの絵本です。一部の鳥瞰図を除いてほとんどが側面イラスト。温かみのある人物たちと、正確無比な客車の内外装。その調和が堪りません。

http://shinshu-online.ne.jp/museum/chiisanaehon/sakuhin.htm より。
この取材元になった列車、上野〜金沢間の急行「能登」は去年(2010年)春まで健在でした。
ですから、この一見ノスタルジックに見える一冊も、つい去年までは現在進行形であったのです……絵本のEF58+旧型客車から14系客車時代を経て、最終的に489系電車に置換えられていますが。
でもまぁ今からみると14系も489系(バブル期に内装変更済。でも国鉄色)も十分に懐かしの対象ですね。
さて、現在進行形といいますと。
この絵本の初版(「こどものとも」ペーパーバック版)は1980年。即ち、初版当時も「現在」を描いたものだったのです。
そのペーパーバック版は当時に友人宅や図書館で読み、子供心に驚いたものでした。
1980年というと未だブルートレインブームのを引っ張る時期。派手で華やかに見えたEF65PFの牽く24系25形に憧れていたもの。
でも、この本で描かれている夜行列車は座席車まで混ぜた地味な急行でごちゃまぜ編成! あぁ世の中にはこんな列車もあるのだと! あこがれはどんどん変わっていったのです。
幸いにも憧れは叶い、中学〜高校生位でこの種の夜行列車(急行に限らず、普通や快速)に乗る機会には多々恵まれました(現実的に小遣いで乗れる安い交通手段という側面はありましたけど)。
そのたびに、この絵本の登場人物の一人になったような気分を味わったものです。
なお、有名な?ツッコミどころに以下があります。
・当時の上野〜金沢間急行は上越線ではなくて信越線経由(深夜にEF63くっ付ける所はサマになったでしょうに!)。
・金沢でEF58はおかしい(あのへんは交流電化で、EF70かEF81牽引の筈)
そこらを気にするのは野暮ってものでしょうね。
それよりは正確に描きこまれた客車の内装に感嘆すべき……。あのレベルの資料は意外とありません。
最後に蛇足。
あの雰囲気を残す列車というのはなおも過去形になっていません。
未だ「きたぐに」「はまなす」がしっかり残っていますし。そして、世界に目を広げれば「やこうれっしゃ」はさして珍しくもないのですから(特に中国・ロシア・意外ですがアメリカ)。
蛇足の蛇足。
個人的なアムトラックの印象は「豪華な大陸横断列車」ではなくて、「やこうれっしゃ」に近いんですよ。寝台座席ゴチャ混ぜに荷物車もついた編成が当たり前。お客さんもまた人種宗教ばらばら。そのうえ深夜にも田舎の駅で客を乗せたり降ろしたり。あと、普通車(コーチ)の運賃は異様に低廉ですから(笑)。