以下ツイッターに記した感想の再編集で、amazon.co.jpにも☆5つで投稿したものです。
編集部にはがきも送っとこう、「続編出せ」と(笑)。
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読みながら涙だけじゃなくて汗まで流れてきます。
作者の「電車愛」がこれ程に滲み出てくるフィクションは初めて読むもの。モータにギア、エアの音、ブレーキやレールの軋みまで聞こえてくる。そして吹き込む風まで感じられる。飛び込む景色。電車好きなら必読。
ストーリィも気取らない愛と優しさ。 鉄道描写の正確さは現場のプロじゃないと突っ込めないレベル? 一般的なマニアだと訂正修正できる余地はないでしょう。鉄道ファン的にはわかる人にわかる「元ネタ」も好。最初の章のタイトル「お芝居特急」は阪急の神戸〜宝塚間「歌劇特急」が元ネタか? 他も濃厚。
適度な無茶も、鉄道関係者の間では万国共通で時折伝えられるような「伝説的運転」「伝説的鉄道員」のレベルに収まっており説得力があります(注:物理法則を無視するような話はありません)。而して爽快!
漫画で喩えるなら表紙の雰囲気から予想してた「ARIA」でもありますし、予想外ですが「逮捕しちゃうぞ」に類例される警官ペアが無茶する愛とマニアックさの込められた作品に近くもあります。それを鉄道員でやっちまったのは驚愕(良い意味で)。主人公ペア以外の同僚も良い味だしています。キャラが立ってる。
お話は主人公の生い立ちなど少し湿っぽい要素あり。でも、それ以上に爽快感が飛びぬける。日本文学・映画的じみじみした感触は皆無で、良質なエンタメ。良い意味で「ライトノベル」といえるでしょう。
さらに電車たちもまたキャラクターが立ってる。鉄道車両に愛称つける慣習のあるアメリカ舞台は正解か? 電車もまたこの物語の主人公に。「フェアリー」の襲名の話。「ノー・ネーム」が「ロイヤル・コーチ」に大出世しちゃう話。旧型電車にライバルたち。
表紙に描かれるキー・システムの「ブリッジ・ユニット」以外の電車もたくさん出てくるので、その意味でもバリエーション豊か。イレギュラーな珍編成まで仕掛けてきます。
さて。
残念なのは表紙以外イラストがないこと。普通の挿絵は要らないので、電車の「形式イラスト」は巻末に欲しい。ついでに言えば詳細な路線図や配線図も欲しい。更に申せば魅力的な1930-1940年代のアメリカの電鉄事情(ターミナルビルや高架橋等)を引き起こしたようなイラストも欲しい。
多くの読者にとって、大昔のアメリカの電車は知識の外でしょう。それが文章で伝えられてはいるのですが、共鳴するのに予備知識が必要かもしれないのがなんとももどかしい。
コミカライズか、或いは「ビジュアルガイド」のような書籍はあっても良いと思いました。
余計なお世話かもしれませんが「アメリカ旅客鉄道史+α」を併読されることおすすめします。
http://www.usrail.jp/ 日本語でここまでアメリカ鉄道史(電車・客車中心)を語った文献・サイトは他にないでしょう。予備知識があれば完全に楽しみきれるはず……。
※:ただし、日本の電鉄システムの多くはアメリカ由来ですから、贔屓の路線(大手私鉄の電化線)があれば、そちらのイメージ楽しむのも可能でしょう。自分はアメリカの電車のイメージ感じつつも、幼い時期に馴染んだ阪急電車やら、今は沿線に住んでる京浜急行あたりもオーバーラップしていましたから。
そんなわけで「うみまち鉄道運行記」お勧めです。☆は文句なしの5つ。続刊期待です。
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しかし、これが流行ってアメリカ電鉄史の文献とか日本語で出てこないかしら(笑)。
ビジュアル面の弱さがなんとももどかしいのです。
「A Bit of Downtown History: Tour of the Subway Terminal Area」
これはサンフランシスコではなく、ロスアンゼルスはパシフィック電鉄の画像集。
でも、イメージつかむ参考になりますかも?
こんな写真をイメージすると世界に没入しやすくなりましょうか。
ロスアンゼルスの電車網(高架・路面・一部に地下)は1930−50年代に全盛を迎えたものの、その後1960年代にはスキャンダラスで悲劇的な結末を迎えます(自動車業界の陰謀論……はなおも真偽不明ですが)。
ただし、1980年代以降アメリカの各都市では公共交通が見直され、やはり「高架・路面・地下」の区分なく走りまわるフットワークの良いLRTが復興しつつある。写真のロスアンゼルスも例外ではなく新線整備が進んでいます。
悲劇は悲劇で終わらない、のでした。